『三四郎』の後に読書会で読み始めたのは、フロムの『自由からの逃走』である。世界各地で独裁的な政権が打ち立てられている今、これほどアップトゥデイトな読み物はあるまい。また内容的にも心の問題からと社会問題にわたる幅広い題材を扱っているので読書会には最適である。
しかし、それだけにこの本を読みこなすのは難しい。参加者の中には、「何が言いたいのかさっぱりわからない」と嘆く者も現れた。彼らは脱落するのではないかと私は諦めかけていたのだが、しばらくすると驚くべきことが起こった。彼らが共同で読書会のための予習を始めたのだ。おかげで次回の読書会は、極めて充実したものとなった。みんなで話し合いながら高度なテキストを読み解いていくという理想的な読書会となったのだ。
「何が言いたいのかさっぱりわからない」と嘆いていた学生が読書会の終わりに興奮気味にこうつぶやいた。「勉強がこれほど面白いと思ったのはこれが初めてだ。」そうなのだ。主体的に協力して取り組めば、勉強は最高に楽しい。そしてこれこそは、『自由からの逃走』とは反対の態度、自由への挑戦である。彼らは知らず知らずのうちに、自由への挑戦を開始していたのだ。こういうことが起こるから、寮生活はやめられない。
寮長 小舘美彦