寮の倉庫には、前々から臼と杵があった。それを見つけた寮生たちが餅つきをやろうと言い出した。しかしコロナが増えてきているので、大々的には行えない。というわけで、寮内でしめやかな餅つき大会を行うことになった。しめやかなと言っても、餅つきの準備はかなり大変だ。臼と杵をきれいに洗い、ひび割れやささくれを修復し、前日には水を張り、当日にはお湯で温める。もち米は前日から研いで水につけておき、釜底には煤がこびりつかないようにクレンザーを塗っておく必要がある。せいろ、かまど、薪を準備しなければならない。出来上がった餅を食べるための黄な粉、あん、のりとしょうゆ、大根おろし、ゴマも用意しておく必要がある。もち米の寮や蒸し時間を間違えてはならない。こんなことが寮生たちにできるのであろうか。ひょっとするとすべて寮長が全てやらなければならないのではないだろうか。一抹の不安が脳裏をかすめた。
しかし、心配は無用であった。私が道具類を準備すると、あとは寮生たちがどんどん準備し始めた。そして当日には、なんと私が用事で留守にしている間に、自分たちだけで餅つきの大半を終わらせてしまったのだ。おいおい、そこまでやならなくても。自立的な若者は頼もしいが、寮長としてはちょっと寂しい。
寮長 小舘美彦